『あなたは私の花』③

「あんた死のうとしただろ。」

椿の言葉に何も言えなくなった。

「まあ でも、運が良いのか悪いのか助かったけどな。あのなーー」

どうしてエリカがここに居るのか説明した。

「椿先輩が私を助けたんですね・・・。」

椿が言うことは理解したが

ただ一つだけ分からない事があった。

「落ちたのになんでかすり傷だけ・・・。」

そう、エリカは確かに落ちた。

【死】を考えていたのだからかすり傷ですむはずがない。

エリカは椿から目をそらして下を向いた。

「あー、あんた気付いてなかったのか。」

椿は様子をうかがいながら話を続けた。

「あんたが落ちた所、ちょうど木の上だったんだよ。それで助かったのは奇跡なんだけどな。」

エリカは少し考えたあと、真っ赤な顔になった。

「思い出しました・・・私下を見ずに・・・。」

小さな声は微かに震えていた。

ポンポン

椿は何も言わずエリカの頭に優しく触れた。

エリカは驚いて持っていたココアをこぼしてしまった。

「あっ!」

着ていた服にかかってしまった。

椿はすぐに拭くものをわたした。

「あ、ありがとうございます・・・あの私もう、」

エリカは気まずくなったので帰ろうとベッドからおりようとした。

ガクッ

「あっぶね」

椿は落ちそうになったエリカを抱きしめた。

(まただ・・・温かい体温、鼓動・・・)

エリカは屋上から落ちた時のことを思い出していた。

「ーーい、おい!大丈夫か?!」

椿の声にハッとした。

『あなたは私の花』②

どのくらい時間がたったのか、

彼女は目を覚ました。

「ん・・・?」

ベッドの上で横になっている体をゆっくり起こした。

あの時落ちたはず、死んだはずの彼女は見覚えのない部屋にいた。

「起きた?痛いところないか?」

声のするほうをみると彼と目が合った。

呆然とする彼女の居るベッドに彼は腰かけた。

我にかえった彼女は、

「な、誰ですか?!なんでここに?!私死んーー」

言葉をさえぎるように彼はおでこに手をあててきた。

「んー 熱はないな」

持ってきていたティーカップを彼女にわたした。温かいココアが入っていた。

「さっきの質問だけど、あんたと同じ高校の2年 名前は椿。で、ここは俺の部屋。あんた1年の木船エリカだろ」

エリカが聞いた質問を応えていった。

「・・・椿、先輩・・・」

エリカはまだ状況がのみこめないのか不思議そうに椿をみていた。

『あなたは私の花』①

真っ白な地面にピンク色の花。

寂し気に 孤独のような・・・

まるであの頃の私をみているみたいで、涙が流れた。


ー2年前ー

放課後のチャイム、全身濡れた彼女、

積もる雪・・・

1歩踏み出せば そこは【死】。

「最悪な人生・・・」

小さな声で呟いて涙を流しながら寂し気に微笑んだ。

ガチャ

「!?」

18時、この時間誰も来るはずのない屋上。

驚いて柵を間に扉の方を振り返った。

「・・・え、何してんの」

扉を開けた先、柵の向こうにいる彼女に彼は声をかけた。

「・・・」

彼を無視して左足を前に出した。

軽くなった体は羽が生えたみたいだった。

(やっと・・・)

彼女は目を瞑った。


ガシッ


つたわってくる体温、聞こえる鼓動を不思議に思いながら 落ちていった。